私の好きなことや言葉で、誰かの窮屈さが一瞬でも和らいだらいいなと思っています

自己啓発本にも毒は入っている

自己啓発本の毒

皆さんは自己啓発本を読みますか? たくさん読む方もいれば何度か読んで実践したが、効果を実感できなかったので読むのをやめたという方もいるかもしれません。自己啓発本を新たな知見を得る手段として用いる方は多いと思いますが、うつ病を抱えている方にとっては、生活の改善とは反対にその内容によりダメージを負うことがあります。病気で苦しい生活を上向かせようと手に取ったこれらの本でかえって苦境に追い込まれることがあるとすればそれはとても残念な事態です。自己啓発本を読むことに関して幾ばくかの気づきになればと願って書きます。

1.自己啓発本の落とし穴 うつ病との相性
2.自己啓発をする無力感 うつ病治療中の挫折

1.自己啓発本の落とし穴 うつ病との相性

自己啓発本は、特定の病気や気質をテーマにした本でない限りは普通の健康状態の人々を対象として書かれているので、これらの本が提供するアドバイスとうつ病生活の現実には前提条件に大きな開きがあります。そのためうつ病の方々とは相性が悪いことがあります。

うつ病になると、日常生活でのさまざまな活動が難しくなります。以前は当たり前にできていたことが、うつ病では大きな障壁となり得ます。しかもうつ病は発病する境が不明確なので、少しずつできないことが増えてきてもすぐには本人は分かりません。一定のリズムで水面を泳ぎ続けているのに、本人は息継ぎがうまくできなくなっていることに気づかないので、大変苦しい状況になります。にもかかわらずまだ周囲の人と同じ強度で仕事や勉強をしていると段々とパフォーマンスが低下してくるのでしばらく横になったり、昼まで寝て夜中に起きるような昼夜逆転の生活を送ったりして、何とかやることをこなしていこうとしますが、一番効果があるのは行動ではなく休息なのです。

しかし私個人に関して言えばこの初期の自覚がない、あるいは不調だと認めたくない時に、何とか遅れを挽回しようとして逆に仕事をどんどん抱えて結局他の人に迷惑をかけてしまいました。気分が優れず仕事がうまくできなくて結局人に迷惑がかかるなら意地張らずに休めばいいじゃんと思う方もいるかもしれませんが、そこで足を止めるというのは責任の放棄であり、一生懸命やっている人ほどその中断はとても勇気のいる決断なのです。

2.自己啓発をする無力感 うつ病治療中の挫折

病院に行って診断をもらい治療をしながらしばらく休むことに専念するとやがて回復期と呼ばれる段階に入ります。このステップで私の気力は少し戻ってきていましたので、回復に向けてうつの専門書や心理学の本を読んでうつ病に対する理解、自分の性格の分析に時間を費やしていました。とにかく早くまともな健康状態になろうとしていました。様々な人がその人生経験に基づいて書いた自己啓発本を手に取り、実行していくことでそれを実現しようとしました。しかしうつ病になっていた私は全く生活リズムがつくれませんし、ほとんどの行動や時間についてコントロールできないので、時間術、習慣化の方法、片付けの法則、仕事術などを読み漁っても、どれも生活を向上させるほどうまくできませんでした。※1

(※1 実はうまくやることに必ずしも苦労や努力は必要ありません。少しの工夫やアイテムで生活にプラスの変化を感じることは可能です。私の家には水槽が複数あってライトを付ける時間に起きられないことがストレスでしたが、スマートプラグを使用することでオンオフを自動化した結果自己批判的な思考が減り生活が楽になった例があります。)

自己啓発本がうつ病の人々にとって難しいのは、読んだ結果自己効力感を損なう可能性がある点です。本を読んで示された方法をうまく実践できないことによる劣等感や失敗感は、うつ病の症状を悪化させる可能性があります。私は休んでいる状態でお金を支払うことに普段より強く罪悪感を持ちその買う買わないのせめぎ合いの末に手に入れた本が役に立たなかったと思った時にさらに罪悪感が増し、絶望感でいっぱいになってしまいました。

いくつも自己啓発本を読んで得たものは実践の困難さや休んでいることへの罪悪感、そしてしっかり本の内容を実行できないことによる自責の念でした。うつ病になると時間通りに仕事をしたり習慣を整えたりすることが難しくなります。それはつまり自己啓発本が提案するような行動指針や時間管理は、うつ病の状態で実行することが並大抵でないことを意味しています。

私はうつ発作が来る度に、お風呂に入れない、歯磨きができない、洗濯できない、片付けできない、朝起きられない、着替えがめんどう、生きるのが面倒という具合ですので、仕事のやり方や習慣を整える方法を考えるのはもう一段も二段もレベルの高いことだったのです。基本的に自己啓発コーナーにあなたのうつ病生活を優しく底上げしてくれる本はないと考えて下さい。身体・精神ともに健やかな人がマッチョになるための本と考えてもらって差し支えありません。筋肉がない状態で高い負荷をかけると身体を痛めます。本ならばそれは心、マインドにきます。

毎朝5時に起きて会員制ジムで一時間汗を流し、コーヒーを飲みながら電子で経済ニュースをチェックするなんてことはキレキレのエリートマッチョな方以外には到底できません。そうした方々の生活リズムをつくるための創意工夫の方法を見ると、どうしたら自分が楽しくできるか継続できるかをとても良く分析していて本当に素敵だなと思うのですが、それは全ての人の人生にとっての最適なスタイルではないということを自分を守るためにしっかり言い聞かせる必要があります。イレギュラーなイベントなど何もない平常時でも毎日同じ時間に寝る・起きるが困難なのでその余白は必要です。

うつ病になって勉強や仕事ができないでいると生きていることが申し訳なく、恥ずかしく感じることがあるかと思います。しかしそこから完全に前の状態に戻ることは残念ながらできませんし、負荷のかかりすぎで歪んだ歯車は簡単には回るようになりません。おいしいご飯を何回か食べたくらいで、素晴らしい自己啓発本を数冊読んだくらいで、消し飛ばせる代物ではないのです。

それらの行いに意味がないと言いたいのではなく、長期戦で長い道のりなので短期的な刺激だけで局面は大きく変わらないという心づもりでいてほしいのです。焦って、不安を取り除こうとして、何かを行ってそれで事態が改善するほど簡単ではないのです。それくらい精神病で心身のバランスを崩すというのは重たいことなのです。本に書いてある通りにできなくても決してあなたは恥ずかしい人間ではありません。

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